その男、元料理人につき
その日、俺は思った。
美味いチャーハンが食いたい。
男は考えた。
赤坂とかで出される高級食材をふんだんに使った高級チャーハンを求めているのか…否
インスタ映えする様なシャレ乙なチャーハンを食ってインスタに投稿したいのか…否
俺が食いたいのは
部屋の隅にブラウン管テレビが置かれ
タバコを更かしながら、野球中継を観ている亭主が作るチャーハンが無性に喰いたい。
なら、さっさと店に行けば良いだろと思うかもしれないが生憎だが最近、全焼してしまってね…
となると、選択肢は1つしかない。
元料理人に作ってもらうじゃないか。
彼は寡黙だ
だが、仕事は確実にこなす。
出来る男と言うのは多くを語らないものだ。
まずは、黒ラベルをゴクリ。
彼にとってビールはエンジンだそうだ。
今回彼が選んだ食材はシンプル
- ネギ
- ハム
- カニカマ
最近の料理は無駄にジェルにしてみたり、泡を上に乗っけて見た目を凝る料理が多いが
足し算ばかりでは真のチャーハンには辿りつけない。
大事なのは、引き算の美学である(?)
フライパンは言う迄もなく、鉄フライパン。
扱いは難しいが、それが料理の醍醐味だと語る彼の眼はまさに少年の目そのものだった。
料理と真に向き合うと、人は純粋になるのであろう。
フライパンが良い感じに熱せられてきた。
いよいよだ
ここからは、眼が離せない。
まさに不可避の速攻である。
どうやら、コンロの下に卵をこぼしてしまったらしい。
だが、彼は慌てなかった。
幾多の修羅場を乗り越えてきた彼にとって
卵がコンロの下にこぼしたことなど、想定の範囲内だ。
完成だ。
これで良いのだ。
というか、これが良いのだ。
チャーハンの原点にして至高である。
俺の性癖を最短距離で核心に迫られた気持ちである。
それでは、いただきます!
この顔である。
あまりに美味もうて、躍動。
彼も一口頂くそうだ。
この笑顔である。
自分の作ったチャーハンにしたり顔である。
料理後の一服も余裕を感じる。
今度は、ポテトサラダでも作ってもらおうかな。